みなさんは、ヤギ飼いカルディやシェーク・オマールのコーヒー発見伝説をご存知でしょうか。
この記事では、コーヒーの発見伝説や、エチオピアをその起源とするコーヒーが、その後どのように世界に広まっていったのか?また、日本におけるコーヒーの歴史などを詳しくご紹介します。
コーヒーの歴史を詳しく知ることで、いつものコーヒーが、より味わい深いものになるでしょう。
コーヒーの発見伝説
コーヒーの発見伝説には、いくつかの説がありますが、特に有名なものは、「ヤギ飼いカルディ」の発見伝説と「シェーク・オマール」の発見伝説です。
それぞれの伝説には、少し異なるバージョンもいくつか存在しますが、いずれも説話や民間伝承の類いであって、正確な史実ではないとされています。
個人的に興味深いのは、この2つの発見伝説には次のような共通する要素があるという点です。
- 最初から飲み物だったのではなく、「果実」を食べたのが始まりだった。
- 神経興奮や疲労回復などの「薬効」が発見につながった。
それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。
ヤギ飼いカルディのコーヒー発見伝説

ある日、カルディは自分のヤギたちが、特定の赤い実を食べた後に興奮して踊り回っているのを見つけます。
不思議に思った彼は、自分でもその実を食べてみると、気分が爽快になり、活力がみなぎるのを感じました。
この発見を地元の修道院の僧侶に伝えたところ、僧侶たちは、夜間の長い祈りの間も眠らずにいられることに気づきました。
その後、眠気覚ましの秘薬として修道院内で広まっていったとされています。
◎異なるバージョンの一例
・僧侶たちは、その実を「悪魔の産物」だと考え、火の中に投げ込むが、焼けた実から生じる良い香りに驚くというバージョン(焙煎起源説)。
・初出の文献では「カルディ」という名前は登場せず、場所も中東のどこかでの出来事として語られていたものが、後にエチオピアの物語として定着したという変遷もあります。
シェーク・オマールのコーヒー発見伝説

シェーク・オマールは、イエメンにあるモカの町を無実の罪で追放されてしまいます。
飢えと疲れから山中をさまよっていたオマールは、一羽の鳥が美しい声で鳴いているのを見つけ、その鳥が赤い実をついばんでいるのを発見します。
空腹だったオマールは、その実を摘んで持ち帰り、スープを作って飲んだところ、活力が回復し、気分が爽快になりました。
その後、追放された町で疫病が流行し、オマールは町の人々を助けるために、この実の煮汁を飲ませると、多くの病人が回復しました。
この功績により、オマールは許されて町に戻ることができ、「モカの守護聖人」と呼ばれるようになったとされています。
◎異なるバージョンの一例
・オマールが、モカの町の王女の病を祈祷で治した際、その王女に恋をしてしまい、町を追放されてしまうというバージョン。
・鳥のついばむ実を見つけるのではなく、オマールが、飢えた状態で山をさまよっている時に、赤い実を食べたところ、飢えが癒され、疲れが消えたというバージョン。
コーヒーの栽培の歴史
アラビカ種の伝播
コーヒーノキ(アラビカ種)は、エチオピアが原産といわれています。それが飲料の原料として6~9世紀頃、イエメンに伝わっています。
1616年
オランダの商人が、イエメンのモカ港から1本のコーヒーの木をオランダに運びました。
1699年
オランダの東インド会社によってインドネシアのジャワ島に苗木が運ばれ、栽培に成功します。
1706年
ジャワで育てられた数本の木が、オランダのアムステルダム植物園に送られ、栽培されます。
1714年
アムステルダム市長からフランスのルイ14世に、1本のコーヒーの若木が贈られます。
1723年
フランス人将校ガブリエル・ド・クリューは、パリ植物園にあった数本の苗木をカリブ海のマルティニーク島へ持ち出し、航海の苦難に耐えた数株の栽培に成功します。
ここから他のカリブ海の国々へ、さらに中南米諸国へと広まっていきます。
◎このルートで広まっていった品種が、「ティピカ」です。
1715年
フランスの商人によってイエメンからブルボン島(現在のレユニオン島)に伝えられたアラビカ種のうち現地で突然変異したものがその後、現在のケニア、タンザニアに移植され、後に中南米にも広まっていきます。
◎このルートで広まっていった品種が、「ブルボン」です。
カネフォラ種の伝播
カネフォラ種の歴史は浅く、19世紀に入ってからヴィクトリア湖(ケニア、タンザニア、ウガンダにまたがるアフリカ最大の湖)の西で発見されました。
1860~1880年代にかけて、アラビカ種は「さび病」の大流行により生産量が激減したため、病気や害虫に強いカネフォラ種がその代替種として、以後急速に導入が進められました。
飲料としてのコーヒーの歴史
コーヒーが飲み物になったのは、14世紀のアラビア半島にあるイエメンからで、15世紀あたりからアラブ世界に広まったといわれています。
この時代のコーヒーは、「バンカム」と呼ばれ、熟した果実の種子を煮て柔らかくしたものを食べたり、その上澄みを飲んだりしていました。
煎った豆を使うようになったのは、1450年頃、ペルシャでコーヒー豆を焙煎し、砕いて煮出して飲むようになってからだといわれています。
コーヒーは、煎り豆の飲料になってからは、「カーファ」と呼ばれるようになりました。
1510年には、エジプトのカイロに伝わり、現在のコーヒーハウスのような、人々がコーヒーを飲む憩いの場もでき始めます。
1554年、トルコのコンスタンチノーブル(現在のイスタンブール)に世界初のコーヒーハウス「カフェ・カーネス」が開店しました。
17世紀に入ると、イスラム文化と共にコーヒーがヨーロッパに広まっていきます。

1645年 イタリアのベネチアにヨーロッパ初のコーヒーハウス開店
1652年 イギリスのロンドンにコーヒーハウス開店
1671年 フランスのマルセイユにコーヒーハウス開店
1679年 ドイツのハンブルクにコーヒーハウス開店
1683年 オーストリアのウイーンにコーヒーハウス開店
1696年 アメリカのニューヨークにコーヒーハウス開店
日本におけるコーヒーの歴史
江戸時代末期、鎖国中の長崎出島で、オランダ商人によって持ち込まれ、当時の貿易に関係した、ごく限られた人々が飲み始めたと考えられます。
当時、一般庶民が口にすることは、ありませんでした。
1804年(文化1年)
太田蜀山人(おおたしょくさんじん)が日本人として初めて「カウヒイ」を飲んだ体験を「豆を黒く炒りて粉にし、白糖を和したるものなり、焦げくさくして味ふるに堪ず」と書き残しました。
1826年(文政9年)
オランダ人医師シーボルトが、コーヒーは長寿をもたらす良薬であると「薬品応手録」でコーヒーをすすめました。
1878年(明治11年)
ジャワのコーヒー苗が、初めて小笠原諸島に移植され、栽培が試みられました(4年後に収穫がありましたが、一般の栽培は行われませんでした)。
1888年(明治21年)
東京下谷(上野)で初めてヨーロッパ風カフェ、鄭永慶(ていえいけい)の「可否茶館」(かひーさかん)が開店しました(が、4年後には閉鎖してしまいました)。
1911年(明治44年)
東京銀座に、洋画家の松山省三の「カフェ・プランタン」、水野龍(りょう)の「カフェ・パウリスタ」が開店しました。
1942年(昭和17年)
コーヒーの輸入が完全に途絶えます。
1950年(昭和25年)
8年ぶりにコーヒーの輸入が再開されます。
1960年(昭和35年)
コーヒー生豆の輸入が全面自由化となります。
国内メーカーが、インスタントコーヒーの製造を開始します。
インスタントコーヒーと缶コーヒーの登場
インスタントコーヒーと缶コーヒーは、「コーヒーをいつでも好きな時に手軽に楽しめる」ようにした画期的な発明であり、それぞれ異なる経緯で誕生し、普及していきました。
インスタントコーヒーの歴史

インスタントコーヒーは、日本人によって発明されたものの、アメリカで実用化・普及が進み、戦後に日本でも広まりました。
1899年、アメリカのシカゴ在住の日本人化学者、加藤サトリ博士が発明し、1901年にパンアメリカ博覧会に「ソリュブル・コーヒー」として出品しましたが、当時はあまり注目されませんでした。
はじめて本格的に実用化したのが、グアテマラ在住のベルギー人、ジョージ・ワシントンです。
1906年にアメリカで特許を取得し、第一次大戦中には兵士に彼のコーヒーが支給され、普及のきっかけとなりました。
日本では、1960年(昭和35年)に、森永製菓が日本初の国産インスタントコーヒーを発売しました。
缶コーヒーの歴史

缶コーヒーは、日本で独自に開発され、発展した文化であり、1970年の大阪万博をきっかけに全国に普及しました。
島根県「ヨシタケコーヒー」の三浦義武が、1965年に開発した「ミラ・コーヒー」が、世界で初めて販売された缶コーヒーだといわれています。
1969年、UCC上島珈琲がミルク入りの缶コーヒーを開発しました。
1970年に開催された大阪万国博覧会の会場で「UCCミルクコーヒー」が販売され、その手軽さが好評価を得て、その後注文が殺到しました。
これが今日まで続くロングセラーとなっています。
日本では、その治安の良さから自動販売機が至るところにあって、缶コーヒーの日本での普及に大きな役割を果たしています。
一方、自動販売機の少なさからか、海外での普及度は限定的で、日本ほど一般的なものではありません。
インスタントコーヒーと缶コーヒーは、いずれも「コーヒーをいつでも好きな時に手軽に楽しみたい」というニーズに応え、コーヒーをより身近な存在にした画期的な発明といえます。
まとめ
この記事では、ヤギ飼いカルディやシェーク・オマールのコーヒー発見伝説や、エチオピアをその起源とするコーヒーが、その後どのように世界に広まっていったのか?また、日本におけるコーヒーの歴史などを詳しくご紹介しました。
コーヒーの歴史を詳しく知ることで、いつものコーヒーが、より味わい深いものになるのではないでしょうか。