コーヒーの精製は、コーヒーの風味や香りに大きな影響を与える重要なプロセスです。
この記事では、コーヒーの精製方法の種類や特徴、風味の違い、新しい精製方法、そして自分の好みに合ったコーヒーを選ぶためのポイントなどを解説します。
コーヒー愛好者の方々が、より深くコーヒーの世界を理解し、楽しむための手助けとなることを目指しています。
生豆ができるまで
コーヒー生産国における、生豆ができるまでの一連の工程は、次のようになります。
- 栽培、収穫
- 果肉、ミューシレージ、パーチメントを取り除く精製工程
- 生豆の外観をそろえる選別工程
- キュアリング、輸出

「精製」とは、収穫したコーヒーチェリーから、果肉、ミューシレージ、パーチメントを取り除いて生豆を取り出し、乾燥させる工程を指します。
この工程によって、コーヒーの風味や香りが大きく変わるため、コーヒー愛好者の方々にとっては、非常に重要な知識となります。
いずれの精製方法においても、生豆の水分含量を適正(10~13%程度)にするために乾燥が行われます。乾燥方法には、天日乾燥(サンドライ)と、機械乾燥(マシンドライ)があります。
選別工程とは?
選別工程とは、生豆の外観をそろえる工程で、主に次のような方法がありますが、どの選別を行うかは、コストや商品の規格などによって様々です。
選別方法 | 手順 |
---|---|
スクリーン選別 | 穴の大きさの異なる、ふるいを組み合わせ、大きさを分ける |
比重選別 | 振動を与え、重い豆と軽い豆を分ける |
比色(電子)選別 | 目視または光の反射率の違いを利用して、外観に異常のある豆、色の異なる豆などを分ける |
ハンドピック | 目視で欠点豆を除去していく |
キュアリングとは?
キュアリングとは、乾燥後倉庫で一定期間、生豆を寝かせることで、この工程を行うことで、風味が落ち着くといわれています。ねかせる期間は、産地や豆の状態によって様々です。
コーヒー精製方法の種類とその特徴
コーヒーの精製方法には、主に次のような4つの方法があります。
• ナチュラル
• ウォッシュト
• パルプドナチュラル(ハニー)
• スマトラ式(ウェットハル)
それぞれの方法には独自の特徴があり、コーヒーの風味に大きな影響を与えます。
以下に、各精製方法の特徴を詳しく解説します。
ナチュラル
この方法は、果実ごと乾燥させ、乾燥した果肉、ミューシレージ、パーチメントを一度に脱殻する方法です。
設備が整っていなくてもでき、廃水やミューシレージなどの廃棄物も最小限に抑えられる方法です。
ウォッシュト
この方法は、果肉を除去した後に、発酵槽に浸けてミューシレージを取り除いた後に乾燥させ、乾燥したパーチメントを脱殻する方法です。
工程の中で選別の機会があるので、均一性が高くなるという利点があります。
ただ、発酵槽やミューシレージリムーバーなどの設備が必要であったり、工程中に多くの水を使うので廃水の問題などがあります。
パルプドナチュラル(ハニー)
この方法は、果肉を除去した後に、乾燥させ、乾燥したミューシレージ、パーチメントを脱殻する方法で、「ハニープロセス」と呼ばれることもあります。
果肉を除去した後に、ミューシレージが付いている状態で乾燥をする点がその特徴です。
ハニープロセスでは、ミュージレージの残存率で区分し、ブラックハニーやレッドハニーなどと呼ばれることがありますが、統一された明確な基準はありません。
スマトラ式(ウェットハル)
インドネシア語では「ギリンバサ」と呼ばれます。
インドネシアのスマトラ島やスラウェシ島の一部などで行なわれている方法で、マンデリンコーヒーの代表的な精製方法です。
この方法は、果肉とミューシレージを除去した後に、予備乾燥させ、パーチメントから脱穀、生豆を取り出した後に、本乾燥させる方法で、雨が多く湿度の高いインドネシアの気候に適応し、早く乾燥させる方法として生み出されたのではないか、といわれています。
上記3つの方法と大きく違う点は、パーチメントを十分に乾燥させない予備乾燥の状態で脱殻し、生豆の状態で乾燥をさせる点です。
この工程が、マンデリン独特の深緑色の生豆を生むといわれています。
精製方法 | 手順 | 最終乾燥状態 |
---|---|---|
ナチュラル | 果実ごと乾燥させ、乾燥した果肉、ミューシレージ、パーチメントを一度に脱殻する | 果実 |
ウォッシュト | 果肉を除去した後に、発酵槽に浸けてミューシレージを取り除いた後に乾燥させ、乾燥したパーチメントを脱殻する | パーチメントコーヒー |
パルプドナチュラル(ハニー) | 果肉を除去した後に、乾燥させ、乾燥したミューシレージ、パーチメントを脱殻する | ミューシレージの付いたパーチメントコーヒー |
スマトラ式(ウェットハル) | 果肉とミューシレージを除去した後に、予備乾燥させ、パーチメントから脱穀、生豆を取り出した後に、本乾燥させる | 生豆 |
各精製方法の味わいの違いなど
ここでは、各精製方法の「味わいの違い」や各精製方法を「採用している代表的な国・地域」などについて詳しく解説します。コーヒー選びの参考にしてください。
ナチュラル
この精製方法では、果肉をつけたまま乾燥させ、自然発酵させるため、「甘みとコクがあり、香りも濃厚な味わい」になります。
この方法を採用している代表的な国や地域には、ブラジル、エチオピア、インドネシア(カネフォラ種)、ベトナムなどがあります。
ウォッシュト
この精製方法では、水に漬けることに加え、果肉とミューシレージを2段階の工程で取り除くため、「酸味が際立ちやすく、クリアな味わい」になります。
この方法を採用している代表的な国や地域には、ブラジル以外の中南米、カリブ海諸国、ケニア、タンザニアなどがあります。
パルプドナチュラル(ハニー)
この精製方法では、ミューシレージを一部残したまま乾燥させるため、「ミューシレージの残量が多いとナチュラルに近く、少ないとウォッシュドに近い味わい」になります。
この方法を採用している代表的な国や地域には、ブラジル、コスタリカなどがあります。
スマトラ式(ウェットハル)
この精製方法では、パーチメントを十分に乾燥させない状態で脱殻し、生豆の状態で本乾燥させるという、この地域独特の方法で、「酸味が抑えられ、苦味の強い、独特の個性的な味わい」になります。
この方法を採用している代表的な国や地域には、インドネシアのスマトラ島やスラウェシ島の一部があります。
精製方法 | 味わいの特徴 | 採用している代表的な国・地域 |
---|---|---|
ナチュラル | 甘みとコクがあり、香りも濃厚 | ブラジル、エチオピア、インドネシア(カネフォラ種)、ベトナムなど |
ウォッシュト | クリアな味わいで、酸味が際立ちやすい | ブラジル以外の中南米、カリブ海諸国、ケニア、タンザニアなど |
パルプドナチュラル(ハニー) | ミューシレージの残量が多いとナチュラルに近く、少ないとウォッシュドに近い | ブラジル、コスタリカなど |
スマトラ式(ウェットハル) | 酸味が抑えられ、苦味の強い、独特の個性的な味わい | インドネシアのスマトラ島やスラウェシ島の一部 |
コーヒーの新しい精製方法
コーヒーの風味や香りに大きな影響を与え、その品質を左右する精製方法は、近年、とくにスペシャルティコーヒーの業界で注目されています。
それぞれの生産地では、コーヒーの付加価値を高めるために、さまざまな工夫がなされ、新たな精製方法が生み出されています。
ここでは、近年、注目されるようになった「アナエロビック・ファーメンテーション」と「カーボニックマセレーション」の新しい2つの方法を紹介します。
どちらも、発酵プロセスをよりコントロールすることで、風味を大きく変化させる点が特徴で、従来の方法である「ナチュラル」や「ウォッシュト」に比べて、ユニークなフレーバーが生まれます。
従来の精製方法の発酵プロセスをコントロールすることで、風味を大きく変化させることが目的で、乾燥や脱殻をして種子を取り出すプロセスは、従来の精製方法と同様に行われます。
アナエロビック・ファーメンテーション
アナエロビックとは、嫌気性(酸素を使わない)という意味で、その名のとおり、酸素を遮断した密閉タンクの中で、コーヒーチェリーを発酵させる方法です。
酸素がある状態では活動しない微生物(菌)が働くことにより、これまでの精製方法では生まれなかった、際立つ香りや独特のフレーバーが生み出されます。
カーボニックマセレーション
アナエロビック・ファーメンテーション(嫌気性発酵)の一種で、ワインの醸造技術を応用したものです。
密閉されたタンクにコーヒーチェリーを入れ、意図的に二酸化炭素(炭酸ガス)を注入して、無酸素状態を作り出し、発酵させる方法です。
酸素を排除するだけでなく、二酸化炭素によって発酵が促され、華やかな香りと柔らかな酸味、独特のフルーティーさが生み出されます。
精製方法 | 発酵環境 | 風味の特徴 |
---|---|---|
アナエロビック・ファーメンテーション | 酸素を遮断 | 際立つ香りや独特のフレーバー |
カーボニックマセレーション | 酸素を遮断 二酸化炭素を注入 | 華やかな香りと柔らかな酸味、独特のフルーティーさ |
これらの新しい精製方法の登場で、コーヒーの持つ可能性がさらに広がり、より多様な風味のコーヒーを楽しむことができるようになりました。
インフューズド・コーヒーとは?
「インフューズド・コーヒー」とは、コーヒーの生産段階 〜 生産後の生豆において、infusion(漬け込み)などによって、シロップ、フルーツ、スパイスなどコーヒー以外のものからフレーバーを移して作ったコーヒーのことです。
こういったコーヒーが作られることは、より多様な風味のコーヒーを楽しむことができるようになるという点では、もちろん、いいことだと思いますし、興味を持って飲んでみたいという人もいると思います。
ただ、その風味の特徴が、コーヒーそのものの風味なのか?外部から添加した風味なのか?というコーヒーの価値の本質的な部分であるからこそ、人によっては、選びたくないと思う人もいるかもしれません。
大切なのは、そのコーヒーが「コーヒー以外のフレーバーを移してつくったもの」だという情報をきちんと開示して、消費者に誤解が生じないようにして、流通させることだと思います。
好みのコーヒー豆を選ぶために
例えば、ナチュラル精製の豆は、果肉をつけたまま乾燥させ、自然発酵させるため、「甘みとコクがあり、香りも濃厚な味わい」になる一方、ウォッシュト精製の豆は、水に漬けることに加え、果肉とミューシレージを2段階の工程で取り除くため、「酸味が際立ちやすく、クリアな味わい」になるのが特徴です。
こういったナチュラル、ウォッシュトなど、各精製方法の味わいの特徴をよく理解したうえで、自分の好みに合ったものを見つけるために、さまざまな豆を試してみましょう。
コーヒー選びがより楽しくなります。
また、自分好みのコーヒー豆を選ぶためには、精製方法だけではなく、焙煎度や産地・銘柄を考慮することがとても大切です。
優先順位をつけるとすると、個人的には、次のようになります。
- まずは自分好みの焙煎度を見つける
- 好みの焙煎度にあった産地や銘柄を選ぶ
- 精製方法の違いで選ぶ
まとめ
コーヒーの精製にはさまざまな方法があり、こだわり始めると奥が深くてキリがないのですが、精製に関する知識の要点を言い表すと、次のようになると思います。
なお、下線は引用者によります。
果実の中にある状態でコーヒーの木の枝から離れた後、乾燥までの時間を種子がどのように過ごしたのか。精製による風味の由来や違いの原因はそれに尽きます。その本質を押さえておけば、さまざまな精製の方法や言葉が出てきても振り回されずに済むはずです。
引用元: 伊藤亮太.常識が変わるスペシャルティコーヒー入門.青春出版社,2016,58p.
コーヒーの精製方法は、コーヒーの風味や香りに大きな影響を与える重要な要素です。
ナチュラル、ウォッシュトなど、さまざまな精製方法を理解することで、自分の好みに合ったコーヒーを選ぶ楽しみがさらに広がります。
この記事を参考に、ぜひ自分だけのコーヒー探しの旅を楽しんでください。